12/8(土)東京大学山上会館で開催された「東京大学 経営のできる大学病院幹部養成プログラム」のキックオフシンポジウム「東大発!攻める大学病院経営」の開催報告です。(その1より続く)
経営者は、チーム(組織)が向かう方向に旗を立てる
続いて登壇した渡邊光康氏(医療法人財団 愛慈会 理事長)は「経営を担う医療者の役割」のポイントとして、1.チーム(組織)が向かう方向に旗を立てる 2.組織運営のバランスをとる 3.組織内のインターフェイスを挙げた。渡邊氏は「チームが向かう方向に旗を立てるには、現在を高いクオリティーで回す人、過去のことを高い精度で整理する人、さらに未来を作る人が必要。今回のプログラムでは『未来を作る人』を作ることを念頭に置いている。これがないと、組織は陳腐化しうる。『未来を作る人』は、言い換えれば、自分たちの将来についてストリーテリングができること。なぜその方向に行くのか、行った先に社会に対してどんな価値を生み出せるのか、そういった、『旗を立てることができる人』をこのプログラムで育てたいと思っている。旗を立てるということは、逆に言えば、目標から逆算して組織内のインターフェイスをコントロールできるということでもある。そして、組織運営のバランスをとるためには経営の普遍性・医療の特殊性・本人の哲学を理解していることが前提で、そのうえで個々の状況に応じてうまく舵をとる必要がある。また私見だが、経営には経営者と医療者などの専門職との考え方の違い、例えばリスクの取り方の違いなども自覚したほうがよい。このプログラムの参加者がこういったことを理解したうえで、新しい価値を生み出してゆくことを期待したい」と語った。
イノベーションは失敗するものであるが、イノベーションしない会社は死ぬ
次に登壇した南学正臣氏(東京大学大学院医学系研究科腎臓内科学/内分泌病態学分野教授、附属病院副院長)は現在の主流である「オープンイノベーション」で大学が求められる役割や現状について語った。日本の共同研究の規模は小さく、組織的な産学連携は本格化していないこと、さらなる企業側と大学側の経営層でのコミットメントや「基礎原理追求」をしがちな大学の研究者の意識改革が必要であるという日本学術会議の提言の紹介、特許などの知的財産マネジメントの強化も必要だが、日本の大学で一番特許数、特許収入が多い東京大学でも特許収入は大学総額で5.5億円(平成27年、大学全体の決算額が約2600億円)、一件あたり23万円と決して多くないため、こういった収入も伸ばしてゆく必要があること、とはいえ、東大病院もイノベーションを促進するために、TRセンターに全学的にイノベーションのシーズを集めるなど、様々な仕掛けを行っている等の話があった。南学氏は「研究のミッションとしては、東大であれば東京大学憲章の『真理の探究と知の創造を求め、世界最高水準の教育・研究を維持・発展させること』『成果を短絡的に求めるのではなく、永続的、普遍的な学術の体系化に繋げることを目指し、また、社会と連携する研究を基礎研究に反映させる。』ことであり、そのミッションの結果として何らかの対価が生じるのが本来の姿」と語り、最後に『イノベーションは失敗するものであるが、イノベーションしない会社は死ぬ』という言葉の紹介とともに、大学病院も企業とともにオープンイノベーションを行ってゆき、その結果として経営の安定が得られるとした。